News colum

新着情報・コラム

コラムページ

やりがい搾取

数年前の話、ある伝統工芸品の制作をされる職人さんがツイッターで、「技術を習いたい、将来的に仕事にしたい方募集。ただし半年間無給でその後の仕事の保証もできません...無料で教授します」という募集を行ったところ、大炎上しマスコミでも大きくとりあげられるといったことがありました。

先週、有名スイーツ店が過労死ラインを超える時間外労働を常態化させているとして労基署から2度の是正勧告を受けていたというニースが報道されましたが、これもネット上でちょっとした騒ぎになっています。

共通するキーワードは「やりがい搾取」です。

働く人の「やりがい」をいいように企業が利用して働く人に不利益を与える行為ですね。

今回の人気スイーツ店の場合は明らかな労働基準法違反のようです。

各方面から非難され、店舗のブランドイメージもボロボロだとは思いますが、100~200時間の時間外労働が常態化し、一部の報道によると(真偽は不明です)残業が月300時間を超える人もいたというのですから、大きな事故が発生しなかったことについては幸運であったと考えるべきでしょう。

取材に対して店舗の広報は「時間を掛けていいものを作る、技を磨くというスタイルを誰も疑ってこなかった」と云います。「商品の種類や数、ラインナップを検討して手間のかからないものにするしかない」と続けますが、その前後の文脈がバッサリ切り取られた言葉であったとしても、この発言からも店舗側の脇の甘さは見て取れます。

1度目の勧告から2度目の是正勧告が出されたということは、1度目をスルーしていたか改善が見られなかったということでしょうが、我々社労士から見れば通常あり得ないことです。関与社労士がいたとしたら眠れない日々が続いているでしょう。

「いいものを作るためには妥協してはいけない。昼夜問わず、サービス残業も当たり前、仕事は苦労して覚えていくものだ」

おそらくですが、そういった世界で育ってきた職人さんは、自らの成功体験を雇用する者に再現させることが、今なぜ「やりがい搾取」と非難されるのか?の理解が容易にはできないだろうと思います。(悪意を持って働く人のやりがいを利用する確信犯は別として)

価値が高いと評価され続ける職人さんの技には、手取り足取りでは伝えきれない「勘所」や「急所」といった要素も絡んでくると思います。センスは勿論ですが、筆舌に尽くしがたい苦労や努力、多くの犠牲を払ってこられた職人さんも少なくないと想像します。

前回の記事で、「給与は低くてもいいので」と教えを請う気満々の求職者がいたということを書きましたが、こんな私でさえ逆にこっちが謝礼をもらいたいとそのとき考えたほどです。売れる技を持つ職人さんが、半人前の被用者から、昇給、有給、残業・・・などと催促されようものなら「は?」となってしまうことは容易に想像できます。「辞めてもらって結構」といった態度に繋がるかも知れません。

言わずもがなですが、労働者には各種法律で与えられる権利があり行使も保障されています。使用者はこれを否定できず、また、権利の行使に圧をかける行為も厳禁ですので、そういった態度はいけません。

とはいえ、大抵の一昔前の職人さんは、労基法ではこうだからという理由で頭ごなしに仕事を否定するような言われ方を嫌います。私個人も、職人気質や精神性、仕事の流儀に対しては敬意を払うべきであると考えますし、これを無視して注意を行うなど無粋であるとたたき上げの事業主さんから教えられたこともあります。

雇用という形態をとりつつ、法律に違反しない範囲の労働時間で一定以上の技術を伝授することが難しい職業や職種は確かにありますし、会社の経済事情が許さない場合もあります。「労働」と「教育」の分離の選択を迫られることになります。「週休3日制」の記事でも触れた、ジョブ型雇用へのシフトも一つの方策でしょう。

一部で本来は価値が低く存在しなくても困らないとされるブルシットジョブですが、社会的地位や報酬について見れば、この対極にあると思えるエッセンシャルワーカーを圧倒します。社会が~だからという非生産的な理屈づけはしたくはありませんが、今の世の中の仕組みが生み出した結果です。

薄給ではあるが、社会に必要とされやりがいある価値が高い仕事なのだから、と自己納得せざるを得ない一部エッセンシャルワーカー等の現状を見るに、広く大規模なやりがい搾取が行われているように感じてしまいます。

介護職、保育士、看護師などの収入を、来年2月にも引き上げる検討を政府はしているとの報道がなされていますが、国の責務として是非実現させてもらいたいものです。

CONTACT

お問い合わせ

労務トラブルによる機会損失や生産性向上の解決に力になります。

  • 営業時間(平日 9:00~18:00)
    ※6月~9月は8:00~17:00

    082-847-3770
  • メールでのお問い合わせはこちら

ACCESS所在地・行き方

  • 〒731-0221
  • 広島県安佐北区可部3丁目19-19佐々木ビル401

可部駅より徒歩13分、車5分向かい側のサンリブが目印です。