事例紹介
飛び込みで未払い賃金を申し立てられたとD社から(E社長)ご相談を受けた。
請求者Fさんのご請求は3年近く分で300万程度であった。
とりあえず、その請求額の正当性の有無の確認のため、就業規則、賃金台帳、出勤簿、請求の内容を見せていただくようE社長に依頼する。見せてもらった就業規則は何十年か前に作成されたもので、出勤簿は名前の横にサインや印の押印があるだけのもの、賃金台帳は明細の控えをどっさりといった感じであった。
D社の勤務時間は8時30分から17時45分までというのが通常らしく、昼に1時間、夕に15分の休憩を想像され、これをE社長に確認してみると、休憩は昼の1時間のみであるとのこと。「となると日々15分の残業が確実に発生していますよ」とE社長にお伝えすると、「なんで?」という反応で、8時間超えの時間は残業時間にあたるという認識が全くないようであった。明細には労働時間が記載されている月もあれば、記載のない月も散見された。
とりあえず、請求内容のコピーと給与明細を持ち帰り、これを精査してみると、Fさんのご主張が全て正であれば、おそらく請求内容以上の額に達することが判明する。
*法律で定められた労働時間は1日8時間、週40時間(一部の業種で例外あり)であるが、週40時間を超える部分の残業代の計算漏れあり。今件では所定労働時間等が曖昧なためこの段階では推定での計算しか行えなかった
D社の勤怠の実態を正確に把握する必要があるため、Fさんの勤怠状況を良く知る方の同席を求め、その実態の確認をさせていただくことした。
聞き取りにはG部長が同席し、G部長によれば、ほぼFさんの主張通りに会社に滞留はしており、これを同じ部署の同僚も見ているとの話であった。
これに対し、E社長は、「Fは仕事が遅いからだ」等と、仕事ができてない者にどうして金を払わないといけないのだ?との発言。賃金の基本は、時間に対して支払われるのが原則で、成果に対して報酬が支払われるのは請負契約等に限られますよと、E社長をなだめるのだが、どうにも納得がいかない様子である。(Fさんに悪い感情を抱いていることがあからさまに感じられた)。
労働契約書(労働条件通知書)をお見せくださいとE社長にお願いすると、これも反応悪く、特に交付していないとの回答。さらに有給管理台帳はありますか?と尋ねると、メモ書き程度の帳簿でその内容も怪しいものであった。
Fさんの請求の内容には、その根拠として手帳のコピーの一部が添えられており、日にちに併せ分単位の詳細に渡る(請求は時間単位でまとめてあった)記録が記載されていた。G部長と同僚からさらに詳しくFさんの業務時間外の様子を伺うと、会社に滞留中は確かに作業をしていたようだとの回答を得る。
会社が行うべきは、まずFさんと話あうことだと考えたが、E社長にその意思はなく、弊所への要求は何とか払わないで済む方法はないのかのただ一点である。
これに対し、その額の多寡はともかく(弁護士さんに依頼)、払うものは払い、これまでの杜撰な事務処理、勤怠管理の是正をしていただき、在籍スタッフの信頼を得ることが会社の将来に繋がるのでは?と助言を差し上げるも、聞く耳を持っていただけないといった感じであった。
*一人が残業代請求をすると、在籍スタッフにもこれが波及することも十分考えられるので、体力のない会社はこのあたりを十分ケアしなければならない
会社の利益とE社長の個人的な感情が対立し、その感情が会社にあらぬリスクを負わせる分かりやすい事例である。
「残業代は一切支払わない」という、いわば法違反について弊所は黙認できないことから、正確であろう残業代の総計をお伝えし、労働条件通知書、有給管理台帳の調製、勤怠管理の基本をご教示して、これ以上のことは出来ない旨をお伝えしその業務を終える事になる。
その後G部長から電話があり、やはりそれなりの残業代を支払うことになりそうであること(弁護士さん探しが難航)、Fさんの同部署の同僚にも不穏な動きがあることを伝えられ、これに対しどう対応すれば良いかのアドバイスを求められる。
Fさんの同僚には、過去に残業に対する未払いがあった可能性があることを認め(Fさんの滞留を見ていたのだからその同僚も残業をしていたと考えるのが自然である)、この補填として同部署の同僚が納得できる方法を模索し、今回の件で会社は変わるのだという決意を表示するなどで誠意をお見せするのはいかがですか?それが大局的に見て会社の利益繋がるでは?との回答を行った。
弊所はD社に体力があることを把握しており、Fさんの同僚も話せば理解していただけるメンバーであろうことはG部長より確認済みにてのアドバイスである。
【本ケースのポイント】
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